【神崎美月の痴女日記】西麻布ブックバーのカウンター。知性と身体、視線が剥がす仮面。

2025年10月1日(水) 曇り、時々、心の驟雨

また、このバーの重厚な扉を開けてしまった。
西麻布の地下に潜む、インクと古紙、そして熟成されたウイスキーの香りが混じり合う聖域。昼間の私が率いるプロジェクトが最終局面を迎え、一分の隙も許されない緊張感に、魂がすり減っていくのを感じていた。だから今夜は、ショーペンハウアーの厭世哲学にでも浸りながら、この張り詰めた神経を鎮めたかったの。

カウンターの隅、いつもの席。身体のラインをありのままに映し出す、薄手の黒いタートルネックに、レザーのタイトスカート。今日の私は、鎧であるブラジャーを肌身から外している。誰にも気づかれれない、私だけの小さな反逆。それが、昼間の完璧な「神崎美月」を演じきるための、必要経費(コスト)なのだから。

分厚い哲学書に視線を落とし、少し前かがみになる。その瞬間、セーターの繊細な生地がぴんと張り、硬く主張を始めた乳首の輪郭が、スポットライトの下に浮かび上がるのを自覚する。それだけで、背筋に甘い痺れが走った。

「面白い本を読んでいらっしゃる」

隣に座った男性の声だった。私と同じように、一人で静かにグラスを傾けていた、知的な雰囲気の男性。彼の視線が、一瞬、私の手元にある本から、私の胸元へと滑り落ちるのを、私は見逃さなかったわ。

「ええ、少し難解ですけれど」

そう微笑んで返しながらも、私の思考は別の分析(アナリシス)を始めていた。彼の興味の対象(インタレスト)は、私の知性?それとも、セーター越しに存在を訴える、この乳房かしら…?

試してみたくなった。
ゆっくりと背筋を伸ばし、わざとらしく胸を張ってみせる。セーターの生地はさらに引き伸ばされ、二つの突起は、まるで暗闇に灯る小さな灯台のように、その存在を露わにする。彼の喉が、小さく上下するのが見えた。ああ、なんて分かりやすい反応。彼の視線は、もう哲学書の上にはない。完全に、私の身体という、もっと原始的で官能的なテクストに釘付けになっている。

視線に嬲られる快感。見られているという背徳感。それだけで、私のスカートの下は、静かに湿り気を帯びていく。もう、これ以上はだめ。ショーペンハウアーの言葉なんて、一文字も頭に入ってこない。

「少し、失礼いたしますわ」

私は平静を装って席を立ち、足早にパウダールームへと向かった。重たい扉を閉め、鍵をかけた瞬間、私は完璧なコンサルタントの仮面を剥ぎ取り、ただの雌に戻る。

鏡に映る自分は、頬を上気させ、潤んだ瞳でこちらを見つめていた。タートルネックの上からでもはっきりとわかる、硬く尖った乳首。なんて淫らな姿かしら…。

その時だった。ふと、鍵をかけたはずのドアの隙間から、冷たい視線が注がれているような、強い錯覚に陥ったのは。
まさか…隣にいた、あの男性?
ありえない。そんなはずはない。けれど、私の心臓は恐怖と、そしてそれ以上に強い興奮で激しく脈打ち始めた。そうだとしたら?彼が今、この私の姿を覗き見ているのだとしたら…?

その途端、私の身体は自分の意思とは無関係に、その「幻想の視線」に応え始めた。

見てるの?…見てなさいよ。
私は鏡の中の自分越しに、ドアの隙間にいるはずの彼を挑発する。セーターの裾をゆっくりとまくり上げ、ノーブラの胸を露わにする。そして、わざと見せつけるように、熱く硬くなった乳首を指先でつまみ、くっと捻りあげた。
「んんっ…!」
口元から、甘い声が漏れる。

もっと見たいでしょう?私のすべてを。
スカートのジッパーをゆっくりと下ろし、タイトなレザーを滑り落とす。ガーターベルトとストッキングに包まれた脚、そしてその間にある、私の最も柔らかな秘密の場所。
彼の視線に応えるように、私は自らの指で、いやらしく秘裂を開いてみせる。花弁のようにしっとりと濡れたそこは、彼の視線を感じてか、さらに蜜を溢れさせていた。
「見て…あなたのせいで、こんなになっているの…」
声に出さず、唇だけでそう呟く。

指先が、熱く膨らんだ官能のボタンに触れる。普段は小さな蕾のように隠れているそこは、今は硬く主張し、彼の視線と私の指の訪れを待っていた。
「んぅ…っ、ぁ…」
円を描くように優しくなぞるだけで、腰が震える。彼に見られている。私の最も恥ずかしい場所を、あんな知的な男性に見られながら、私は自らを慰めている。その倒錯したシチュエーションが、私の理性を焼き切っていく。
指の動きを早める。くちゅ、くちゅ、と小さな水音が、静かなパウダールームに響き渡る。
「もっと…見て…私が、壊れるところを…」
幻想の彼に懇願するように、私は最後の昂りを迎える。硬くなったボタンを指が強く押し込んだ瞬間、幻想の視線が、私の身体の中心を貫いた気がした。
「あ…ぁああッ!」
思考が真っ白に染まり、熱い痙攣が全身を駆け巡る。私は壁に身体を預け、ぜぇ、ぜぇ、と荒い息を吐きながら、その甘い絶頂の余韻に身を委ねていた。

やがて幻想は霧散し、パウダールームには静寂だけが残った。
乱れた衣服を整え、鏡の中の自分を見つめる。そこにいたのは、先ほどまでの痴態が嘘のような、冷静沈着な「神崎美月」。けれど、その瞳の奥には、危険な熱がまだ確かに燻っていた。

カウンターに戻ると、彼はまだそこにいた。私がいない間も、ただ静かに本を読んでいただけのようだった。何も知らない顔で。
私は彼の隣に座り直し、何事もなかったかのように、ショーペンハウアーのページを再び開いた。彼は、私の熱っぽい視線にも気づかずに。

ああ、あなたは知らないのね。ほんの数分前まで、あなたが私のすべてを暴き、その視線だけで私を絶頂へと導いたことなんて。
手の中の本が、再び重みを取り戻す。けれど、今宵、一番重く、そして甘美なのは、あなたと私だけの、この秘密の共犯関係なのかもしれないわね。


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この記事を書いた人

はじめまして、美月です。昼間は丸の内で働くコンサルタント。夜は、誰にも言えない秘密のレビューを、この場所だけで綴っています。あなたと、特別な時間を共有できたら嬉しいな。

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