2025年10月13日 (木) 曇りのち晴れ
深夜2時。ようやく重たいラップトップを閉じた。
アメリカ本社との電話会議は、いつも私の理性を極限まで削り取っていく。飛び交う専門用語、マイルストーンの再設定、ロジックの脆弱性を突く鋭い質問。そのすべてを冷静沈着な仮面で受け流し、最適解を提示し続けるのが、神崎美月の「ON」の顔。ハーバードでMBAを取得し、このファームで最年少のシニアコンサルタントに上り詰めたプライドが、私を完璧な鎧で包んでくれる。
でも、その鎧を脱ぎ捨て、静寂に満ちた目黒のタワーマンションに帰り着いた瞬間から、物語は別のチャプターへと移行するの。
シャワーを浴び、肌触りの良いシンプルなシルクのスリップドレスに身を包む。昼間、あのタイトスカートの下に、誰にも言えない秘密としてガーターベルトとストッキングを身につけていた緊張感から解放される、唯一の時間。
ここ数週間、私を悩ませている奇妙な「夢」がある。いえ、悩んでいる、というのは嘘ね。本当は、心のどこかでそれを待ち望んでいるのかもしれない。前の彼と別れてもう3年近く。私の身体は、まるで乾いた砂漠のよう。だから、夜に見るその淫らな夢だけが、私に唯一の潤いを与えてくれるオアシスなの。
今日も、ベッドに身を横たえ、目を閉じると、意識はすぐに白濁した霧の中へと沈んでいった。
…気がつくと、私は見知らぬ部屋にいた。
いや、見覚えがある。ここは、今日クライアントと激論を交わした、あの無機質な会議室だわ。そして私は、今日クライアントと対峙した時と寸分違わぬ、あのフォーマルなスーツ姿のまま、椅子に座らされていた。周囲には、昼間私にねっとりとした視線を向けてきた男たちが、顔のない影となって座っている。
『今日のプレゼン、大したもんだったな、神崎』
一人の男が、乱暴な口調で言った。
『だがな、俺たちがてめえに求めてんのは、そんな理屈じゃねえんだよ』
声は、私の中の「M」の琴線に、的確に触れてきた。
『さあ、立て。そしてそのテーブルの上に乗れ。靴は脱げよ、テーブルが傷つくだろ』
侮辱的なのに、妙に丁寧な命令。私は抗えず、ハイヒールを脱ぎ、ストッキングのまま冷たいマホガニーのテーブルの上によじ登る。そして、言われるままに膝を立てて座った。
『まずはそのジャケットが邪魔だ。脱げ』
私は、まるで業務をこなすように、寸分の乱れもなくジャケットを脱ぎ、丁寧に折り畳んでテーブルの隅に置いた。その従順な仕草に、男たちの嘲笑が響く。
『次はブラウスだ。…見ろよ、こいつの乳首、もうブラウスの上からでも形がわかるぜ。ビンビンじゃねえか』
「…っ!」
指摘された瞬間、心臓が跳ね、乳首がさらに硬く尖るのがわかった。
『おい、神崎。聞こえてるんだろ。てめえの口で言ってみろ。乳首がどうなってる?』
「…わ、私の…乳首が…硬く、なって…ブラウスの、シルク生地を…内側から、押し上げて…います…」
自分の声が、まるで他人事のように会議室に響く。そして、その言葉を発したという事実が、私の股間をじわりと熱くさせた。
『ハッ、正直でよろしい。じゃあ、そのボタンを一つずつ外せ』
震える指で、一番上のボタンに触れる。一つ外すと、男たちの卑猥な声が飛ぶ。
『いいぞ、鎖骨が見えた』
『こいつのブラジャーは黒か…スケベな女だ』
一つ、また一つと外していくたび、私の白い肌があらわになっていく。
『全部外したな。じゃあ、ブラの中からてめえのでかい乳を出して見せろ』
命令に従い、私は黒いレースのカップに指をかけ、押し込めていた美乳を自らの手で解放した。重力に従って、豊かな双丘がやわらかく揺れる。
『見事なもんだな。Fカップは伊達じゃねえ』
『その硬くなった乳首を、てめえの指でつまんでみろ。もっと硬くしろ』
言われるがままに、指先でその先端をきつくつまむ。きゅん、と甘い痺れが走り、私の蕾は石のように硬くなる。
『おい、どんな感じだ? てめえの口で説明しろ』
「…指で、つまむと…甘い痛みが、走って…胸の奥が、疼きます…。先端は…もう、これ以上ないくらい…硬く…」
(ああ、なんてこと…この口が、私の知性が、彼らの意のままに…)
自分の言葉に興奮し、下着の中がさらに濡れていくのがわかった。
『いいだろう。次は下だ。脚を開け。俺たちにてめえの秘密の花園を見せろ』
私はゆっくりと両膝を開いていく。タイトスカートが太ももに張り付き、これ以上は開かない。だが、その隙間から、私の誇りであり、同時に羞恥の象徴でもある、ガーターベルトの黒いラインと、ストッキングの艶かしい光沢が覗いていた。
『ハッ、見ろよ。スーツの下はこれか。とんだ痴女じゃねえか』
『おい、神崎。てめえはなんでそんな格好をしてるんだ? 説明しろ』
「…こ、こういう格好をすると…見られているかもしれない、というスリルで…興奮、するからです…」
自分の性癖を告白させられた。これ以上の屈辱はない。だが、それこそが私のMの魂を喜ばせていた。
『なるほどな。じゃあ、そのスカートの上からでいい。てめえの濡れた場所を擦ってみろ。俺たちの前でオナニーしてみろ』
「…!」
私は、スカートの上から、一番感じやすい場所に手を置いた。薄い生地の上からでも、そこが熱く、濡れているのがわかる。ゆっくりと指を動かし始めると、くぐもった、甘い声が漏れた。
「…ぁ…ん…っ、ふ…ぅ…」
『見ろ、こいつの腰つき。完全にイってるぜ』
『スカートに染みができてきたぞ。どんだけ濡れてんだ、この淫乱女は』
男たちの下品な解説が、最高の媚薬だった。
『おい、どうなってるか言え。スカートの上からでもわかるんだろ?』
「…もう、スカートの生地が…私の蜜で、ぐっしょりと…濡れて…肌に、張り付いて…います…。動かすたびに、ぬるぬると…滑って…あぁ…っ」
『もういい。スカートをまくり上げろ。そして、ストッキングとパンティーを、てめえの手で横にずらせ』
私はスカートをたくし上げ、ストッキングのクロッチ部分を指でずらす。そこはもう、彼らの言う通り、決壊した泉のようだった。熱い蜜が、私の指を伝い、ぽた、ぽたと硬いマホガニーのテーブルの上に落ちて、黒い染みを作っていく。
『…すげえな。おい、神崎。最後のプレゼンだ。俺たちの目の前にあるソレが、今どんな状態で、どんな感覚がするのか。俺たちが欲情するように、完璧に説明してみせろ』
ああ、最悪で、最高の命令。
私は、自分の分析能力を、今度は自分の淫らな部分に向けるしかなかった。
「…はい…。私の中心は…決壊し、粘度の高い愛液で…光っています…。指で両側に開くと、内側の襞は…興奮で赤く腫れあがり…ぴくぴくと、脈打って…います…。指が触れるたびに、全身に電気が走るような感覚がして…もっと、奥まで…硬くて、熱いもので…貫いて、欲しいと…叫んで…います…っ」
その言葉を言い終えた瞬間、私の指の感覚が、別のものに変わった。
これはもう、私の指ではない。彼らの、誰かの、欲望で膨れ上がった、熱い鉄の塊そのものだわ。
幻想のそれが、私の濡れそぼった入り口にゆっくりと沈み込んでくる。
「…ひっ…! あ…ぁ…っ!」
私の内部の襞が、まるで生き物のように彼のものを捕らえ、もっと奥へと吸い付いていく。ぬるりと滑りながら、内壁を押し広げ、侵食してくる圧倒的な存在感。現実の私の身体は、テーブルの上で腰を震わせ、その幻想の快感に悶えていた。
そして、ついに。
子宮の入り口を、硬い先端がぐ、と突き上げる。一番奥にある、私の核を。
「…っ、あぁっ…! そこは…、だめぇ…っ!」
『どうした、神崎。もうイくのか?』
『俺ので、頭がおかしくなっちまったか?』
「…だめぇ…、もう、そんなに突いたら…、わ、私が…私じゃなくなっちゃう…っ!」
私の知性も、プライドも、彼の圧倒的な「力」の幻想の前では無力だった。思考が真っ白に塗りつぶされていく。
『イけよ、神崎。全部俺に差し出して、ただの雌になれ』
その最後の命令が引き金だった。彼のものが、私の最奥で一度だけ、ひときわ大きく脈打った。その瞬間、彼のものとされる熱い奔流が、私の身体のすべてを満たしていくのを感じた。
「あああああぁぁぁっ…!」
絶頂の中で、神崎美月という「ONの私」は完全に破壊され、消滅した。
ただ、幻想の彼にすべてを委ね、ぐったりと身体を震わせる、一匹の「雌」だけが、そこに残されていた。
…はっ、と目を覚ますと、窓の外が白み始めていた。
まだ夢の残滓が身体にまとわりつき、全身が気怠い熱を帯びている。そして、シーツにまで染み込んだ、生々しい湿り気が、あの夢がただの空装ではなかったことを、静かに物語っていた。
なんて夢を見てしまったのかしら。
でも、不思議と嫌な気はしなかった。むしろ、心の奥にあった澱のようなものが、すっきりと洗い流されたような感覚さえある。
これが、本当の私なのよね。
論理と理性で構築された昼の顔と、欲望のままに支配されたいと願う夜の顔。
そのギャップに少しだけ自嘲しながら、私は今日もまた、完璧な「神崎美月」の鎧を身に纏うために、ベッドから起き上がるのだった。

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