2025年10月5日 水曜日 『ROI算出不能な熱量』
深夜まで続いたM&A案件のデューデリジェンス。モニターに映る無数の数字と格闘し、脳が沸騰しそうなほどの緊張感から解放されたのは、日付も変わる頃だった。完璧なロジック、寸分の狂いもないスライド。クライアントの称賛の裏で、私の心と身体は悲鳴を上げていた。このままではいけない。すり減った精神を再構築(リストラクチャリング)するため、私は逃げ込むようにして、予約していた会員制スポーツクラブのパーソナルトレーニングへ向かった。
新しいトレーニングウェアに腕を通す。オンラインで買ったそれは、思ったよりもずっと生地が薄く、身体のラインを容赦なく拾い上げた。特に、肩紐が華奢なキャミソールタイプのトップス。これではブラジャーは着けられない。仕方なく乳首にシールだけを貼り付けたけれど、鏡に映った自分の姿に思わず息を呑んだ。薄い布一枚の下で、私のFカップの乳房の丸みが、その存在をこれでもかと主張している。動くたびに、重力に従って大きく、そして柔らかく揺れるのが自分でも分かった。
「失敗したわ…」
呟いたところで、もう着替えるものはない。このまま臨むしかない、と覚悟を決めてトレーニングルームへ向かうと、新しいインストラクターの彼が爽やかな笑顔で待っていた。いかにも体育会系といった、日に焼けた肌と、Tシャツの上からでも分かる厚い胸板。若さが弾けるような、真っ直ぐな瞳。
「神崎さん、よろしくお願いします!今日は下半身を中心に追い込んでいきましょう!」
彼の声に、私は「ON」の仮面を被り直す。「ええ、よろしくお願いするわ」。
ランニングマシンでのウォームアップから、私の羞恥心との戦いは始まった。走るリズミカルな振動に合わせて、拘束具のない胸がたわわに揺れる。彼の視線が、最初はフォームをチェックするプロフェッショナルなものだったのに、次第に熱を帯びていくのを、私は肌で感じていた。気のせいだと思いたかった。でも、スクワットで深く腰を落とすたび、私の臀部から太ももにかけての曲線に、彼の視線が粘りつくように絡みつく。
レッスンが進むにつれ、その視線はもはや隠しようのない「雄」のものに変わっていた。薄いウェアの生地を透かして、私の肌を直接舐めるような、不躾で、いやらしい視線。普通の女なら、不快感でその場を立ち去るのかもしれない。でも、私の身体の奥深く、普段は理性の分厚い壁に閉じ込めている何かが、その視線を養分にして、むくむくと疼き始めていた。
「…なんて、はしたない」
心で自分を罵りながらも、肌は粟立ち、背筋をぞくぞくとした快感が駆け上っていく。もっと見てほしい。私のこの柔らかな膨らみを、汗で光る肌を、あなたのその熱い視線で射抜いてほしい。そんなMな願望が、思考を支配し始めていた。
そして、私は見てしまった。
トレーニングの合間、私に次のメニューを説明する彼の、スウェットパンツの股間が、明らかにその形を変えていることを。それは、隠しようのない男性の熱量だった。アダルト動画でしか見たことのない、硬く、盛り上がったシルエット。
その瞬間、私の脳の回路は焼き切れた。もう、彼の顔をまともに見られない。視線は、彼のその一点に吸い寄せられてしまう。彼も気づいていたのかもしれない。ほんの一瞬、気まずそうに身じろぎしたから。でも、もう遅かった。私の内部で、何かが決壊した音がした。それは、私の理性が崩れ落ちる音。脳裏に浮かぶのは、ありえないはずの妄想。あの硬い熱が、もし、私に向けられたら…?
レッスンが終わる頃には、私はもう限界だった。彼への挨拶もそこそこに、ロッカールームを通り過ぎ、いつものように個室トイレのブースに駆け込んだ。
カチャン、と鍵をかける音だけが、やけに冷静に響く。
冷たい便座に腰を下ろし、震える指でシルクのショーツの上から、熱く濡れた中心に触れた。もう、そこは私自身の熱で滑らかになっていた。
「はぁっ…、んっ…」
吐息が漏れる。目を閉じると、さっきまでの光景が鮮明に蘇る。彼の熱い視線。そして、あの股間の膨らみ。
指が、湿った布地をゆっくりと滑る。それだけなのに、腰がびくりと震えた。違う、これじゃない。もっと、確かなものが欲しい。私は焦れるようにシルクのクロッチを横にずらし、火照りきった私の果実に直接指を触れさせた。
「あっ…!」
声にならない声が喉から洩れる。指先が、硬くなった蕾に触れた瞬間、さっきの彼の姿が、より鮮明な幻想となって私を襲った。
…目の前に彼がいる。汗の匂い。荒い呼吸。彼が、私の薄いウェアの肩紐に指をかけ、引きちぎるように剥ぎ取っていく。露わになった私の美乳に、彼が飢えたようにしゃぶりつく。熱い舌が、硬くなった私の先端を舐めとり、吸い上げる…。
「んんっ…、いや…、だめ…っ」
口では拒絶しながら、私の指は彼の妄想に応えるように、激しく、淫らに動き始める。幻想の中の彼は、私のトレーニングパンツを乱暴に引き下げると、硬く、大きくそそり立ったものを剥き出しにした。熱く、脈打つそれが、私の肌を擦り、ねっとりと濡れた私の入り口に、その先端が押し付けられる…。
「あ、ああッ…!」
もう、止められない。そこからは、現実と幻想の境目がわからなくなった。彼の熱い視線と、私の指がもたらす快感。支配されることへの強い興奮が、私のすべてを飲み込んでいく。トイレの個室という、密やかで背徳的な空間が、私の痴女としての本性をさらに引きずり出す。私は、なんてスケベで、淫乱な女なのだろう。でも、それがたまらなく気持ちいい。
いつもよりずっと深く、激しい波が、私の身体を何度も貫いた。壁に額を押し付け、声を殺して震える。遠のく意識の中で、私は確かに、彼の満足げな顔を見た気がした。
しばらくして、荒い息遣いだけが個室に響いていた。鏡に映る私は、頬を紅潮させ、瞳は潤み、髪は汗で首筋に張り付いている。完璧なコンサルタント、神崎美月の姿はどこにもない。そこにいたのは、ただ欲望に溺れた一人の「女」だった。
帰り支度をしながら、ふと冷静に今日の出来事を分析する。投資したのは、1時間のトレーニングフィーだけ。しかし、得られたリターンは、脳が焼き切れそうなほどの官能的な興奮と、精神の深い部分での解放感。
…今日の投資対効果(ROI)は、もはや算出不能ね。
誰に言うでもなく、私は密かに微笑んだ。

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