金曜の夜。
カツ、カツ、と私のハイヒールの音だけが、静まり返ったオフィスの廊下に響き渡る。完璧に仕上げたプレゼン資料、クライアントからの賞賛の言葉…今日も私は「デキる女、神崎美月」を完璧に演じきった。
けれど、重厚なマホガニーのドアを閉め、一人きりの自室の静寂に包まれた瞬間、私はもう一人の私になる。
今夜、私の指が求めていたのは、分厚い契約書ではなく、タブレットの冷たい画面。そこに映し出されたのは、『スペンス乳腺開発計画』という、あまりにも扇情的な文字列と、蠱惑的な笑みを浮かべる「伊藤舞雪」という女性だった。
「乳首は、第二のクリトリス…」

画面の中の彼女がそう囁いた瞬間、私の喉が、きゅっと渇いていくのがわかった。それは、ただの謳い文句ではなかった。私の身体の奥深くに眠っていた、ある記憶の扉をノックする、禁断の呪文だったのだ。
そう、私も知っている。
「スペンス乳腺」…乳房の、あの脇の下に近い、少し硬くなった部分。そこが、女を狂わせるスイッチだということを。
数年前、完全会員制のビューティークリニックの、静謐な個室で。私は白衣をまとった男性セラピストの前に、なされるがままに横たわっていた。バストアップと血行促進を謳う、最高級のトリートメント。けれど、彼の指が私のそこに触れた瞬間、それがただの美容施術ではないことを、私の身体は悟ってしまった。
「神崎さん、少し、力抜いてくださいね。ここが『スペンス乳腺』です。女性の感受性を司る、とても大切な場所なんですよ」
耳元で囁かれる、穏やかで、それでいて有無を言わさぬ声。彼の指が、私の乳房の外側を、ゆっくりと、しかし確かな圧で円を描くように揉み解していく。最初は、ただくすぐったいだけだった。でも、彼の指が特定のポイントをぐっと押し込んだ瞬間、びりり、と電気が走った。
「ひゃっ…!」
思わず漏れた声に、セラピストは微笑んだだけ。でも、私の身体は正直だった。胸の奥が、じんわりと熱を持ち始め、血が沸騰するような感覚。乳首が、誰に命じられるでもなく、硬く、尖っていく。それは恥ずかしくて、でも、どうしようもなく気持ちが良くて…。
あの日の記憶が、伊藤舞雪の喘ぎ声とシンクロして、鮮やかに蘇ってくる。画面の中の彼女は、男の指に乳房を蹂躙され、蕩けきった表情を浮かべている。「ヤバイ、ヤバイ…」と繰り返しながら、美しい身体を弓なりにしならせる。
…もう、だめ。
私の理性が、ぷつりと音を立てて切れた。
リモコンを放り出し、私の指は、まるで自分の意志を持っているかのように、自身の身体へと伸びていく。着ていたシルクのブラウスの、その滑らかな生地の上から、硬く尖ったままの左の乳首を、そっと撫でる。それだけで、背筋に甘い痺れが駆け上った。
一つ、また一つと、真珠色のボタンを外していく指先が、もどかしい。早く、直接触れたい。あの日のように、私の胸を、誰かに、ううん、私自身の手で、めちゃくちゃにしてほしい。
ようやく現れたのは、肌の色をいやらしく透かす、黒いレースのブラジャー。その繊細なレースの隙間から、指を滑り込ませる。指先に触れる、熱を持った肌の感触。乳輪をくるりとなぞれば、私の乳首はさらにカチカチに硬度を増していく。
ブラジャーのカップをぐいと持ち上げ、露わになった乳房を、両手で包み込む。柔らかくて、でも、確かな重み。そして、思い出すように、あの場所…「スペンス乳腺」を、自分の指で探り当てた。
「んぅ…っ!」
自分の指なのに、あの日のセラピストの指のように感じてしまう。親指の腹で、ゆっくりと、念入りに、そこを揉み解していく。じん、じん、と胸の奥から熱が生まれて、それが乳首へと一直線に繋がっていくのがわかる。
私がなぜ、クリニックでのあの日をこれほど鮮明に思い出してしまったのか、その理由を知りたくない…? 画面の中の彼女…伊藤舞雪のこの表情、この喘ぎ声を見れば、私の身体の熱が、指先の震えが、あなたにもきっと、伝わってしまうはず…。
【私がここまで乱れた「証拠」の映像はこちら…】
私の指は胸だけでは満足できなかった。
下腹部が、きゅうんと甘く疼いている。片方の手でスペンス乳腺を揉み続けながら、もう片方の手は、ゆっくりと下へ…。
滑らかなサテンのショーツの上から、私の秘密の場所に触れる。そこは、もうすでに、じっとりと熱い蜜で濡れていた。クロッチの部分を指でなぞると、湿り気が布地を黒く変色させる。
ああ、なんていやらしい身体。
私は、クロッチをそっと横にずらした。待ち構えていたかのように、とろりとした白い愛液が、指先に絡みつく。それをまるでローションのようにクリトリスへと塗り広げ、優しく、円を描くようにこすり始めた。
「あっ…ぁん…っ…くぅ…」
声が、漏れる。胸の快感と、下の快感が、身体の中で混じり合って、とんでもない熱量を生み出していく。濡れそぼった花弁の奥へ、指を一本、沈めていった。
「ん、ぅう…っ!」
ぬるり、とした生温かい感触。中のヒダが、まるで生き物のように私の指にまとわりつき、引き込んでいく。二本目の指を、無理やりねじ込む。入り口が、きゅっと締まって、そして、ぬるりと受け入れた。
指の動きが、速くなる。ぐちゅ、ぐちゅ、と自分の中からいやらしい水音が響く。
「イク…っ、いっちゃ、うから…っ!」
身体の奥が、きゅううっと収縮した。びくん、びくん、と全身が大きく痙攣し、脳が真っ白な光で満たされる。一度目の、甘い絶頂の波が、私を攫っていった。
「はぁ…っ、ぁ…ぁ……」
余韻に浸り、シーツに身体を預ける。でも、何かがおかしい。
足りない。
こんなものじゃ、ない。
画面の中では、伊藤舞雪が男の太いモノを受け入れ、さらに激しく喘いでいる。彼女の身体は、一度の快感では決して満たされないことを知っているかのようだった。その姿が、私の身体の奥でくすぶる渇望に、再び火をつけた。
「…もっと…ほしい…」
無意識に、言葉が漏れていた。
震える手で、ベッドサイドテーブルの一番下の引き出しを開ける。そこは、私の聖域。知的で冷静な「神崎美月」が決して人に見せることのない、欲望の巣。
ひんやりとした、プラスチックの感触。私が取り出したのは、男根を模した黒いディルドと、先端が丸いコードレスのローター。
ぶぅん、と唸りを上げるローターを右の乳首に押し当て、悲鳴のような喘ぎ声を上げながら、私はもう一方の手に握った、黒く艶めくディルドに手を伸ばした。
たっぷりとローションを垂らす。私の蜜と混じり合い、ぬるぬるとした光を放つそれを、私はゆっくりと自分の入り口へと導いた。
「…っは…ぁ…」
先端が、ぬるりと中に入る。指とは違う、圧倒的な太さと硬さ。私の狭い道が、無理やりこじ開けられていく背徳的な快感に、腰が震えた。
そして、ここからが、私の知らない私の領域だった。
ディルドが奥へと進むと、私の内壁にある無数のヒダが、まるで意思を持ったかのように蠢き始めたのだ。
くちゅ、くちゅ、と音を立てて、そのヒダがディルドに絡みついてくる。それは、ただの肉の壁ではなかった。ディルドの表面にあるリアルな静脈の筋を、ヒダの一つ一つが、ねっとりと舐め上げるように擦っていく。
「な…に、これ…っ…ぁ、ん…」
驚きと快感で、言葉にならない声が漏れる。私の内側が、この異物を歓迎し、もっと奥へ、もっと深くへと導いている。ヒダが波のようにうねり、ディルドが進むべき道筋を、自ら作り出しているかのようだった。
ディルドの先端が、壁の一番敏感な一点…Gスポットに、こつりと当たった。その瞬間、
「ひぅっ!」
私の身体が大きく跳ねた。すると、今までディルドを導いてきたヒダたちが、今度はそのGスポットを覆い隠すように、きゅうっとディルドを締め上げた。まるで「ここよ、もっとここを突いて」と、私の身体が訴えているみたいに。
画面の中の伊藤舞雪が、男のモノを奥まで飲み込み、恍惚の表情で喘いでいる。彼女もきっと、この感覚を知っているのだ。犯されているようでいて、実は自分の身体が、そのモノを喰らっているのだということを。

私はもう、自分が誰なのかわからなくなっていた。
右手はローターで乳首を狂ったように責め続け、腰はディルドの快感を最大に引き出そうと勝手に動き出す。そして、私の身体の奥では、蠢くヒダがディルドを貪り、吸い付き、締め上げている。
「あぁっ!んっ!イク、イク、イグぅぅううっ!!」
ディルドを、一番奥まで、力任せに突き入れた。その瞬間、私の身体の奥で、何かが弾けた。
Gスポットをディルドが抉り、ヒダたちが最後の力を振り絞って締め上げたその刹那、びくっ、と身体が大きく跳ね、膣の奥から、熱いものが奔流のように溢れ出した。それは、先程の絶頂とは比べ物にならない、深く、激しい痙攣。シーツが、私の愛液でぐっしょりと濡れていくのがわかった。
「はっ…はぁ…ぁ…こわ、れた…おくが、もう…」
二度の絶頂の後、私はまるで抜け殻のようだった。
画面の中では、伊藤舞雪がまだ、恍惚の表情を浮かべている。
…私を、ここまでにしたのは、あなたよ。
あなたのせいで、私はもう、普通じゃいられなくなった。
この、どうしようもない身体の熱を、あなたも味わってみる…? 私がどんな風に壊されたのか、その目で確かめてみる…?

シーツの冷たさが、火照りきった肌に今はもう感じない。
窓の外は、相変わらず静かな夜。でも、この部屋の中の空気は、さっきまでとはまるで違う。甘く、濃密な、私の欲望の匂いで満たされている。
私の胸は、私の身体は、もう、昔の私のものではない。
あの日のクリニックで、そして今夜、この映像によって、完全に「開発」され、そして「壊されて」しまったのだから。
ねぇ、この疼きは、今夜だけじゃ絶対に収まりそうにないの。
次は、どんな快感を求めればいいのかしら…。
教えてくれる?
…あなたの番よ。


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