神崎美月の日記
2025年9月26日 金曜日
午前2時。ようやく手放したグラスには、まだボルドーの深い香りが燻っている。今日もまた、アドレナリンだけを燃料に駆け抜けた一日だった。分厚い提案書、一分の隙も許されないクライアントへのプレゼンテーション、そして、数字という名の無機質な怪物との睨み合い。会議室の張り詰めた空気の中で、私は完璧な「神崎美月」を演じきった。冷静で、論理的で、決して感情を見せない鋼の鎧をまとったプロフェッショナル。
けれど、この真夜中の静寂の中、高価なシルクのネグリジェ一枚でソファに身を沈めると、その鎧は呆気なく融解していく。そして、私の意識のスクリーンに、なぜか繰り返し再生される光景があるの。
それは、今日の午後、プロジェクトリーダーである彼の「手」だった。
ホワイトボードに複雑なスキームを描き出す、少し骨張って、けれどしなやかな指先。淡い青のシャツの袖口から覗く、日に焼けた手首と、そこに浮き立つ微かな血管。どうしてかしら。あんな、何の変哲もない日常のワンシーンが、私のロジックボードの片隅に、消せない付箋のように貼り付いて離れない。
目を閉じると、その幻想はさらに色濃くなる。
あの手が、私のタイトスカートの裾からそっと忍び込み、薄いストッキング越しに、太ももの内側をゆっくりと撫で上げていくような、ありえない感触。肌が粟立ち、背筋にぞくぞくとした甘い痺れが走る。だめよ、こんなこと…。私の理性が警鐘を鳴らすのに、身体は正直に熱を帯びていくのがわかる。
幻想の中の手は、さらに大胆に、その歩みを進めてくる。私の中心にある、最も柔らかな場所へ向かって。そして、もう片方の手は、まるでスローモーションのように私のブラウスのボタンへとかかる。一つ、また一つと外される小さな真珠。その度に、私の素肌が夜の冷たい空気に晒され、胸の疼きは増していく。
…気づいた時には、私自身の指が、その幻想をなぞっていた。
まるで彼の手に導かれるように、私の左手はネグリジェの薄い布地を押し上げ、湿り気を帯びた熱の中心を、ためらいがちに、しかし確かなリズムで縦に滑っていたの。そして右手は、いつの間にかブラジャーのカップの中に忍び込み、硬く尖り始めた蕾を探り当てていた。
ああ、なんてこと。昼間の私が見たら、きっと軽蔑するに違いない。
指先が触れるたび、乳首がきつく硬くなり、下腹部の奥がきゅっと締め付けられる。それは痛みにも似た、抗いがたい快感の波。私の脳は、もう何のKPIもROEも計算できない。ただ、この背徳的な幻想のディレクターに、されるがままになっている。
誰にも見せることのない、私だけの秘密。明日になればまた、私はあの鋼の鎧を身にまとい、戦場へ向かうのでしょう。でも今だけは、この熱い疼きの中に、私という存在の、もう一つの真実があることを、許してほしいの。
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