【神崎美月の秘密の日記】終電の視線 – 完璧な私が、スカートの中で堕ちた夜

2025年9月25日 木曜日

また、午前様。重たい瞼をこすりながら、最終に近い山手線に身体を滑り込ませる。今週も走りきった。クライアントとのタフな交渉、深夜まで続く資料作成のデッドライン。マーケットの非合理性と同じくらい、この身にのしかかる疲労は非線形で、予測不能だわ。

ぼんやりと窓に映る自分は、完璧な鎧を纏ったコンサルタント「神崎美月」。けれど、その内側で何かが軋んでいるのを、私だけが知っている。

空席を見つけて腰を下ろすと、向かいに座る男性と目が合った。三十代半ばかしら。安っぽいスーツに、疲れ切った顔。手には文庫本が広げられているけれど、その瞳は活字を追ってはいなかった。彼の視線は、本の上端から滑り落ち、私の膝へと、そしてその少し上へと…執拗に何かを探っている。

不快感。ええ、最初はそうだった。軽蔑すべき、卑しい視線。私の市場価値(マーケットバリュー)を、そんな風に値踏みしないで。けれど、その視線が私の肌をじりじりと焼くような感覚に、心の奥底で何かが疼き始めたの。

プロジェクトのリスク分析のように、頭の中でシミュレーションが始まる。このまま無視を貫くのが、正解。それが「神崎美月」としての最適解。でも、もし…。もし、ほんの少しだけ、パラメーターを動かしてみたら?

いけない。そう理性がアラートを鳴らすのと同時に、私の脚は、まるで意思を持ったかのように、組んでいた膝の角度を数ミリだけ緩めていた。スカートの裾が、ほんの少しだけ広がる。

その瞬間、彼の喉がごくりと鳴ったのが見えた気がした。慌てたように本に視線を落とすけれど、すぐにまた、もっと大胆に、もっと貪欲に、私の太ももの間…その暗がりに隠された何かを暴こうとするかのように、舐めるような視線を送ってくる。

ああ、ダメ。見てる。見られている。
普段、私が決して見せることのない、無防備な領域。その境界線を、見ず知らずの他人が視線だけで侵犯してくる背徳感。ぞくぞくと背筋を駆け上るこの感覚は、何?恐怖?いいえ、違う。これは…興奮だわ。

目的の駅に着き、逃げるように電車を降りる。けれど、身体の芯に残った熱は、夜風に当たっても少しも冷めてくれない。足早に駅の多目的トイレに駆け込んだ。

カチャン、と鍵をかける音だけが、やけに大きく響く。

鏡に映る私は、頬を上気させ、潤んだ瞳で、まるで知らない女のようだった。ブラウスの第一ボタンに、震える指がかかる。

目を閉じれば、さっきの光景が焼き付いて離れない。あの電車の揺れ。あの卑しいけれど、熱を帯びた視線。

もし、私がもっと大胆だったら?
もし、あの時、スカートの中でそっと脚を開き、薄いシルクの布地を指で横にずらして、その奥にある湿った秘密の入り口まで、あの視線に晒していたとしたら…?

想像しただけで、太ももの内側がじわりと熱を持つ。たまらなくなって、滑らかなストッキングの上から、そっと指を這わせる。布越しに伝わる熱が、私の理性を溶かしていく。

もう片方の手は、無意識にブラウスのボタンを二つ、三つと外していた。窮屈なワイヤーから解放された胸が、熱い吐息とともに震える。冷たい指先で、硬く尖った蕾に触れると、ビクリと身体が跳ねた。つまみ、転がすたびに、快感のインパルスが脳を突き抜け、下腹部の疼きを増幅させていく。

ああ、もっと…見られたかった。
あの視線に、私のすべてを射抜かれ、暴かれたかった。完璧な「神崎美月」というペルソナが、欲望の前で無様に崩れ落ちる様を、誰かに目撃されたかったのかもしれない。

指が、湿り気を帯びた熱源に辿り着く。そこは、さっきの空想をなぞるように、すでに濡れていた。

…これ以上は、だめ。
私は、私でいられなくなる。

荒い息を整え、乱れた服を直す。鏡の中の女は、いつもの冷静な表情を取り戻そうと必死だった。

あれは、ただの幻。今週溜まったKPI未達のストレスが見せた、一瞬の悪夢。

そう自分に言い聞かせながらも、個室を出る私の足取りは、どこか覚束なかった。そして、明日もまた、私は完璧な仮面をかぶって戦場へと向かうのだろう。この、誰にも言えない秘密の熱を、スカートの下に隠したまま。

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この記事を書いた人

はじめまして、美月です。昼間は丸の内で働くコンサルタント。夜は、誰にも言えない秘密のレビューを、この場所だけで綴っています。あなたと、特別な時間を共有できたら嬉しいな。

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