2025年9月28日 日曜日 曇り
週末の夜。月曜のクライアントミーティングで提示する最終戦略のドラフトを睨みつけ、脳が沸騰しそうになるのをどうにか宥めすかして、ようやくPCを閉じた。張り詰めた集中という名の弦が、ぷつりと切れたような虚脱感。何かでこの空白を埋めなくてはと、無意識にリモコンを手に取り、古いフランス映画を再生する。
ただ、映像をぼんやりと目で追うだけの、そんな時間になるはずだった。
あのシーンを目にするまでは。
銀幕の中で、一人の美しい女優が、シルクの布でそっと目隠しをされていた。男物のネクタイなのでしょうか、それが彼女の華奢な手首を、まるで装飾品のように緩く束縛している。そして、一本の白い鳥の羽が、彼女の肌の上を、秘密を囁くように滑っていく。
ただそれだけの、芸術的でさえある映像。
なのに、抗えない快感に、彼女の腰がしなやかに、そして切なげに弧を描いた瞬間、私の呼吸が止まった。
演技よ。フィクションだわ。
頭の中の冷静な私がそう囁くのに、身体の奥深く、普段は決して開けることのない箱の錠が、カチリと音を立てて外れるのを感じた。
ふと、デスクの隅にあるカリグラフィー用の筆が目に入る。我ながら馬鹿げていると思いながらも、まるで何かに導かれるように、それを手に取ってしまった。
寝室のベッドに腰を下ろし、部屋着のシルクのキャミソールをそっと引き下げる。あらわになった胸の先端に、柔らかな筆の穂先が、ためらうように触れた。
指で直接求めるよりも、ずっと微かで、もどかしいはずの刺激。
それなのに、どうしてかしら。まるで微弱な電流が走ったかのように、鋭い疼きが身体の中心を貫き、そのまま一番奥深くのから熱いものが湧き上がる。
「……ぁ……」
思わず、吐息が漏れた。
もし、あの銀幕の女優が、私だったら?
見知らぬ誰かの、それでいて私を熟知した男の手にすべてを委ねて、視界を奪われたまま、ただ感覚だけを研ぎ澄まされるとしたら…?
そんな背徳的なファンタジーが、私の理性のダムをいとも簡単に決壊させていく。羽の代わりに、この筆の穂先が、あるいは彼の指先が、私のすべてをなぞっていくのを想像するだけで、もう…。
シーツの上に、熱を帯びた雫が静かに広がっていることに気づくのに、そう時間はかからなかった。恥ずかしいは・・・・こんなにしちゃって
昼間の私が必死に構築したロジックもプライドも、この夜の闇の中ではあまりに無力。ねぇ、本当の私は、どちらが本当の「私」なのかしら。こんなにも不条理な方程式に、心を揺さぶられてしまうだなんて。
もしかしたら私は、自分でも気づいていないだけで、本当は…。
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