10月4日 土曜日 晴れ
ベルベットのカーテンの隙間から差し込む、気怠い休日の光。シンクタンクの分厚いレポートも、鳴り響くクライアントからの電話もない、静寂に満たされた朝。私、神崎美月は、ようやく手に入れたこの静寂を、魂の底から欲していたはずだった。
なのに、どうしてかしら。
脳裏にちらつくのは、あの真っ直ぐな瞳。
最近チームに配属された、年下のアシスタント君。私が提示する無茶な要求にも、食らいつくように「勉強になります」と目を輝かせる、まだ青さの残る青年。先日の深夜に及んだプレゼン資料の最終チェック。疲れ切った私に彼が差し出した、温かいコーヒーのマグカップ。その指先の綺麗だったこと…。
「私としたことが…どうかしているわね」
独りごちて、シルクのガウンの襟を合わせた。けれど、身体は正直なの。昼間の私、ロジックと数字で武装した『神崎美月』という鎧の下で、ずっと息を潜めていた獣が、ゆっくりと目を覚ます気配。下腹部に、鈍い熱が灯り始める。
抗えない。抗う気もないのかもしれないわ。
ふらり、と吸い寄せられるように、ウォークインクローゼットの大きな姿見の前に立つ。そこに映るのは、いつも完璧に着飾ったコンサルタントではなく、髪を無造作に束ね、薄いシルク一枚を纏っただけの、ただの「女」。
…もし。
もし、会社の誰もいない休日に、彼だけを重役用の応接室に呼び出したら…?
そんな、あまりにも背徳的なシナリオが、一度浮かんでしまったらもう止められない。
カチャリ、と重厚なドアに鍵をかける幻の音が、耳の奥で響く。戸惑いながらも、私の上司としての命令に逆らえず、革張りのソファの前に立つ彼の姿が見える。
「か、神崎さん…?一体、これはどういう…」
彼の声が、不安げに震えている。
「…座ったらどう?」
私は幻想の中の彼にそう促し、自分はゆったりと彼の対面に腰を下ろす。そして、鏡の中の私自身が、その「役」を演じ始める。
ゆっくりと、ガウンの紐を解く。現れるのは、昨日新調したばかりの、黒いシルクのブラジャーと、腰のラインをいやらしく強調するガーターベルト。鏡の中の私を見つめる、幻想の彼の視線が肌を焼くようだわ。
「えっ…あ…」
彼が息を呑み、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえる。
「ふふ…驚いたかしら」
挑発的な笑みを浮かべ、私は自分のブラウスの、第一ボタンに指をかける。
「それとも…いつもみたいに、もっと見たい?」
彼の瞳が困惑に見開かれるのを、愉しむように。
「会議中、資料を指し示す私の胸元に、あなたの視線が何度も注がれていること…私、気づいていないとでも思った?」
「そ、そんなつもりじゃ…ありません!」
彼の慌てた声が、私の耳には心地よく響く。なんて可愛らしいのかしら。
「あら、そうなの?」
彼の動揺を最高のスパイスにして、一つ、また一つとボタンを外していく。
「…でも、見たくない、なんて言わせないわよ」
全てのボタンを解放し、自らの手で、Fカップの美乳をくぐもった声で喘ぎながら揉みしだいた。指先に、硬く尖った感触が伝わる。
「ねぇ、もうこんなに熱くて、硬くなっているの…わかる?」
ブラジャーの肩紐を指でずらし、その重みを解放してやる。現れた薄紅色の頂点を、親指と人差し指でつまみ、こりこりと嬲って見せつけた。鏡の中の私が、なんて淫乱な顔をしていることか。
もう、止められない。
ソファに深く身を沈め、私はゆっくりと足を大きく開いた。太ももを伝う黒いレースのガーターが、彼の視線を私の中心へと導くのがわかる。
「か、神崎さん…だめです、そんな…」
彼の理性が、最後の抵抗を試みている。けれど、その視線は私の太ももの付け根から、もう逸らせなくなっているわ。
「もっと、近くで見て…?」
息のかかる距離まで彼を呼び寄せる幻想。私の人差し指が、黒いシルクのショーツの、ちょうど秘裂が当たる部分をゆっくりと、縦に滑り始める。まだ乾いた布の上から、硬くなり始めた蕾の感触を確かめるように、じっくりと。
片方の手がそんな背徳的な遊びに耽る間、もう片方の手は胸へと戻る。指先で乳首をきつくつまみ上げると、脳に直接的な快感が走り、下腹部がきゅう、と疼いた。その刺激に呼応するように、手のひら全体で乳房の豊かな膨らみを、慈しむように、そして蹂虙するように、何度も揉み上げた。
胸への刺激が、私の中心へと熱を送り込む。
指がショーツの上を上下するたびに、最初は乾いていたシルクが、じわりと湿り気を帯びていくのがわかった。私の指の動きに合わせて、黒い布地の色が、蜜を吸ってさらに深く、艶やかな色へと変わっていく。小さな染みは、指の往復運動とともに線となり、やがて、私の欲望の形を縁取るように、大きく広がっていった。
「んんっ…ふぅ…」
もう、隠せない。指を動かすたびに、布越しに「じゅぷ…」という湿った音まで聞こえてくるのだから。
「見て…こんなに濡れてしまったわ」
その指先を彼の目の前に差し出し、とろりとした蜜の糸が引くのを見せつける。
「お、俺の…せいで…?」
彼の声は、もはや欲望の色に掠れていた。
「えぇ、全部、あなたのせいよ…」
囁きながら、湿ったクロッチを指で横にずらす。そこには、欲望の色に染まり、恥ずかしいくらいに潤んだ私のすべてが、完全に晒け出されていた。
「さぁ、触ってもいいのよ」
彼の顔をぐい、と引き寄せる。
「見てごらんなさい。この震えているところ…**クリトリス**っていうの。あなたの視線だけで、こんなに硬く怒っているわ。そしてこの奥からは、もう蜜が溢れて止まらないの」
「あ…ぁ…」
彼は私の**クリトリス**から目が離せないでいる。
「…舐めたいんじゃないの?」
「………っ!…な、舐めさせて…ください…」
ついに、彼の理性が砕け散る音がした。敬語のまま欲望を懇願する声に、私の背筋がぞくぞくと粟立つ。
「いいわよ。おいでなさい」
彼がソファの前に跪く。最初は恐る恐るだった舌先が、私の湿った花弁に触れた。
「んっ…」
「違うわ…もっと、大胆に」
私が腰を揺らして促す。
「そう…その**クリトリス**を、もっと舌で弄んで。もっと激しく…!」
私の命令に、彼は野生を取り戻したように、貪欲にしゃぶりつき始めた。熱く濡れた舌が、私の**クリトリス**を激しく何度も往復し、吸い上げ、弾く。彼の荒い呼吸が、私の肌を焼くようだわ。ああ、なんてこと。真面目な彼を、こんな獣に変えてしまった…。
その背徳感が、私を絶頂の淵へと突き上げる。
彼の舌の熱が、彼の存在そのものの熱に変わっていく。
違う、もう舌なんかじゃない。これは、彼の欲望そのものが形になった、硬く脈打つ楔。
幻想の具現化。私の指が、彼の舌が、彼の欲望そのものになった。
ズン、と身体の奥深くまで突き入れられる、幻想の熱。硬くて、熱くて、私の内壁を隅々まで押し広げていく。現実の私は、その幻想の疼きに合わせて腰を締め付け、さらに多くの愛液で応える。ああ、だめ。思考が溶けていく。ロジックも、プライドも、神崎美月という存在そのものが、この原始的な快感に凌駕されていく。
ただの、雌に還る。
「あ”…っ、い”くぅぅっ…!」
鏡の前で、私は一人、大きく背を反らせて痙攣した。思考が真っ白に染まり、ただ、幻想の彼に貫かれる激しい悦びだけが、全身を駆け巡っていった。
しばらくして、ゆっくりと目を開ける。
鏡に映っていたのは、頬を紅潮させ、瞳を潤ませ、全身をぐっしょりと濡らした、乱れきった女の姿。
「…月曜日、彼にどんな顔で会えばいいのかしら」
口元に浮かんだのは、困ったような、それでいて心の底から愉しんでいるような、自嘲の笑みだった。

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