2025年10月18日 跪く男、見下ろす私
論理で人を屈服させるのは、私の得意とするところだ。
今日の最終交渉で、プライドの高そうなクライアントの部長たちを完膚なきまでに論破し、こちらの要求を全て飲ませた時の、あの静かな興奮。彼らの瞳に浮かんだ僅かな「屈辱」の色こそが、私への最高の報酬だった。
けれど、夜の帳が下りる頃には、知的なゲームの興奮は砂のようにこぼれ落ち、もっと生々しく、もっと原始的な渇望が、子宮の奥から疼き始める。これまでは誰かの視線に晒され、辱められることに悦びを感じていた。でも、今日の私は違った。
「待っているだけなんて、退屈じゃないかしら…?」
シャンパンゴールドのタイトなワンピースに素肌を通し、下着を何も身に着けずに夜の街へ。向かったホテルのラウンジで、私は「獲物」を見つけた。自信家で、高そうな時計をこれ見よがしにつけた、支配されることなど知らなさそうな男。
計算通り、彼は私の落としたハンカチを拾うフリをして、スリットの奥の秘密を盗み見た。そして、案の定、私の隣の席へやってくる。ありきたりな口説き文句を弄び、彼の自尊心をくすぐりながらも決して主導権は渡さない。
「少し、夜風にあたらない?」
その誘いを待っていた。
人気のないホテルの庭園。彼はもう我慢できないとでも言うように、私を壁に押し付け、唇を奪おうと顔を近づける。でも、私はその胸を人差し指一本で、静かに押しとどめた。
「焦らないで」
私の声は、夜の静寂に冷たく響く。彼の瞳をじっと見つめ、私は微笑んだ。
「…ねぇ、さっきからずっと見ていたでしょう?」
彼の動きが止まる。その動揺を愉しむように、私は続けた。
「バーの入り口ですれ違った時、私の脚を上から下まで舐めるように見ていた。カウンターに座っていた時は、私の胸元を。そして、ハンカチを拾った瞬間…あなたは、私のスカートの中を見た。違うかしら?」
図星だったのだろう。彼の喉がゴクリと鳴る。私は彼の耳元に顔を寄せ、熱い吐息と共に囁いた。
「そんなに、私の身体が見たいの?…だったら、ちゃんと言葉でお願いしてちょうだい。『美月さんの肌が見たいです』って」
彼の顔に、屈辱と興奮が同時に浮かぶ。数秒の葛藤の後、彼はかすれた声で、私の命令を繰り返した。
「…みづきさんの、はだ、が、見たい、です…」
「よくできました」
私は褒めてあげると、自分のワンピースの背中のジッパーに手をかけた。ゆっくりと、焦らすようにそれを下ろしていく。シャンパンゴールドの布地が左右に分かれ、私の背中、そして脇腹の滑らかな肌が月明かりの下に晒されていく。ジッパーは鳩尾のあたりで止められた。
「驚いた?何も着けていないのよ」
彼の目の前で、私はドレスの前身頃をゆっくりと左右に開いた。何の束縛もない、豊かな美乳が、重力に従ってふわりと姿を現す。夜の冷気が、私の肌を粟立たせ、その先端をキュッと硬く尖らせた。
「ほら、見て。あなたのいやらしい視線のせいで、こんなに硬くなってしまったわ」
私は自分の指で、硬くなった突起を弄びながら彼に見せつける。彼は息を呑み、もう理性の寸断寸前といった顔で、私の胸に手を伸ばそうとする。しかし、私はその手を、パシンと軽くはたいた。
「だめよ。まだ許していないわ」
挑発するように笑いかける。
「…これだけじゃ、足りないんでしょう?本当に欲しいものは、もっと下にあるんじゃないかしら?」
私の言葉に、彼の瞳が爛々と輝く。
「欲しいなら…ひざまずきなさい」
命令だった。彼は一瞬ためらったが、私の胸から目が離せない。欲望が、彼のちっぽけなプライドを打ち砕いた。スーツの膝が汚れるのも構わず、男は私の足元に、ゆっくりと崩れ落ちた。
「もっと見たいの?」
見下ろしながら問いかけると、彼は犬のようにこくこくと頷く。
「だったら、もう一度お願いするのよ。『お願いです、女王様。僕にもっと見せてください』って」
「お、お願い、します…じょおう、さま…」
その言葉を聞いた瞬間、私の内側で何かが弾けた。私はゆっくりと、自分の手でワンピースの裾をたくし上げる。下着のない、ありのままの私が、彼の目の前に晒される。そして、私は自分の指で、濡れた花びらをゆっくりと押し開いてみせた。
「ほら、見て。あなたを待っていたら、こんなに蜜が溢れてしまったわ…」
彼が、はっと息を呑む。
私はその顔を見下ろし、最後の命令を下した。
「舌を出しなさい。…そう。それで、私の蜜を、一滴残らず舐め尽くすのよ」
彼の舌が、私の中心に触れた瞬間、脳が焼き切れるような衝撃が走った。他者を支配し、屈服させた上で与えられる、背徳の快楽。彼の舌が私の蜜を味わい、懇願するように動き回る。
でも、私の意識はもう、目の前の男にはなかった。この男を支配しているという事実そのものが、私の中の新たな扉をこじ開け、更なる幻想の支配者を呼び覚ます。
ああ、だめ…!
この男の奉仕ごときで、私は満足できない。この程度の支配では、私の渇きは癒せない。
彼の舌使いが高みに達しようとした、その瞬間――。
私の脳裏に浮かんだのは、もっと巨大で、抗いがたい「力」そのもの。私の矮小な支配欲など、赤子の手をひねるように無力化してしまう、絶対的な雄の存在。
「これはもう、彼の舌ではない…」
私の内側を抉る感覚は、現実のそれから、完全に幻想へと取って代わられた。幻想の支配者が持つ、血管が浮き立つほどの熱を持った、硬い現実そのものが、私の子宮口をこじ開けてくる。
「ああッ…!そ、んな…!私の、支配が…!」
膝まずかせた男を支配する快感が、幻想の彼に内側から蹂躙される屈辱的な快感に塗り替えられていく。内壁が締め付けられ、愛液が止めどなく溢れ、現実の肉体は幻想の侵入に呼応して激しく痙攣する。
そうだ。私は支配などできない。
結局、私はこうして、絶対的な力の前には、ただの雌にされてしまうのだ。
最後の瞬間、幻想の彼が、その存在のすべてを証明する灼熱の奔流を、私の中に注ぎ込むのがわかった。私の知性も、プライドも、支配欲も、すべてがその白濁の中に溶かされていく。
気がつけば、目の前で男が呆然と私を見上げていた。
私は乱れた呼吸を整え、何事もなかったかのようにスカートを直し、冷たく言い放った。
「…もう、いいわ」
彼をその場に残し、私はヒールを鳴らして闇の中へ消えた。
タクシーの中で、私は濡れたままの股間を抑えながら、笑いが込み上げてくるのを止められなかった。
男を支配する快感と、幻想に支配される快感。
SとM。今夜、私はその両方を味わってしまった。
なんて女なのかしら、神崎美月という女は。
私はこれから、どこまで堕ちていくのだろう。

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