2025年10月12日 (水) ゲリラ豪雨の夜に咲いた背徳の花
まるで空に穴が空いたみたい。
夕刻、クライアントとのタフな交渉を終えてオフィスビルを出た途端、世界は灰色の瀑布に飲み込まれた。KPI、EBITDA、シナジー…そんな無機質な単語で埋め尽くされた脳を、激しい雨音が叩きつける。傘など何の役にも立たず、お気に入りのシルクのブラウスは、あっという間に第二の皮膚のように肌に張り付いてしまったわ。
奇跡的に拾えた一台のタクシー。後部座席に身を滑り込ませると、文明の温かさに安堵のため息が漏れる。びしょ濡れのジャケットを脱ぎ、ハンカチで顔や首筋の雫を拭う。けれど、その行為が、今夜の過ちの引き金になったの。
ふと、バックミラーに映る自分と目が合った。いえ、正確には、運転手の男の視線と、ね。
濡れたブラウスは、もはや下着としての意味をなさず、私のすべてを白日の下に晒していた。Fカップの双丘の丸み、その頂で硬く尖る存在、そしてうっすらと透ける乳輪の輪郭まで。それはもう、裸よりも淫らな、猥褻なアートのようだった。
ああ、最悪。ジャケットで隠していたのに。深いスリットの入ったタイトスカートも、後部座席の柔らかなシートの上では心許なく、少し膝を開けばガーターベルトが覗いてしまう。まずいわ、早くジャケットで隠さないと…。
理性がそう警告するのに、私の身体は動かない。それどころか、男の視線が、まるでねっとりとした舌のように私の肌を舐めるたび、身体の芯がじんと熱を帯びていくのを感じてしまう。羞恥と、それを凌駕する背徳的な興奮。私の中の「神崎美月」が、静かに警報を鳴らしている。でも、もう一人の私が、もっと、と囁くの。
気づけば私は、寝たふりをしていた。薄目を開けてバックミラーを盗み見ると、信号で停まるたび、男の視線が私の胸と、そしてスカートのスリットの奥へと突き刺さるのがわかる。その視線に煽られるように、私はわざとゆっくりと膝を開いた。きっと、光の加減によっては、ガーターの奥、シルクのパンティが守る秘めやかな丘の輪郭まで見えたはずだわ。
もう、止められない。濡れたブラウスの下で、私の乳首はさらに硬く主張を強めている。運転手にも、きっとはっきりと分かっているはず。私という女が、彼の視線だけで、こんなにも感じているということが。
ああ、いつもの悪い癖。現実と妄想の境界線が、溶けていく…。
***
―ガクン、と車が止まる。そこはもう、私の住むタワーマンションのエントランスではない。人気のない、夜の公園。幻想の中の彼は、私の腕を掴んで車から引きずり出すと、冷たい多目的トイレの中に乱暴に押し込めた。
カシャリ、と鍵の閉まる無機質な音が、私の理性の最後の糸を切った。
「…おい、本当は俺に見せつけてたんだろ?」
バックミラー越しに感じていた視線が、今はすぐ側で、私を射抜いている。彼の声は、私の知性やプライド、昼間の仮面をすべて剥ぎ取るような、侮蔑と欲望に濡れていた。
「インテリ女のくせして、中身はスケベなんだな。俺に見られて、興奮してたんだろ?」
違う、と否定する唇は震えるだけ。彼の言葉は、私が心の奥底でずっと認めたくなかった、私の本質そのものだったから。
「お前の望み通り、じっくり見てやるよ。さあ、その綺麗な脚を広げてみろ。そこで、お前の指で自分を慰めてみろよ」
命令。それは、私の思考を麻痺させる魔法。抗えない。見られている。支配されている。その事実だけで、私のスカートの下はもう、雨上がりの小川のように潤っていた。震える指でシルクのクロッチをずらし、濡れたブラウスの胸元を開く。彼の視線を受けながら自分の身体を慰める背徳感に、私の身体は彼の幻想を、より確かな現実として求め始めていた。
「指じゃあ、もう物足りねえだろ」
彼の声が響く。
「欲しいんだろ?自分で入れてみろよ」
その、脳内に響く支配者の声が最後の引き金だった。私の理性は完全に焼き切れ、残ったのはただ、雄に媚びる雌の本能だけ。
魔法にかかったように、私は震える指でその熱い幻想を掴んだ。指先に感じるのは、もはや私自身の肌の冷たさではない。紛れもない、男の欲望が凝縮されたかのような、血管が浮き立つほどの熱と、石のような硬さ。生き物のように、どく、どくと脈打つそれが、私の羞恥心を焼き尽くしていく。
それを、ゆっくりと、祈るように、すでに蜜でとろとろになった私の中心部へと導く。
熱を帯びた先端が、潤んだ入り口に触れた瞬間、びくり、と全身が歓喜に震えた。ああ…!待ち侘びていた。私の身体のすべてが、この瞬間を。
現実の私の身体が、幻想の硬さを受け入れようと、自ら奥を開いていくのがわかる。滑るように迎え入れられたそれは、私の敏感な内壁の襞ひとつひとつを慈しむように、しかし有無を言わせぬ力で押し広げながら侵入してくる。
「……ぁ…っ…」
声にならない声が漏れる。それは拒絶ではなく、あまりの快感に溺れる悲鳴。私の内側が、まるで意思を持った生き物のように、侵入してくる幻想のすべてを味わい、記憶しようと、きつく、ねっとりと吸い付いて締め付けるのがわかる。私のすべてが、それにまとわりつき、もっと、もっと奥まで来てほしいと懇願するように脈打っている。
幻想のそれは、私の懇願に応えるように、さらに重みを増して深く、深く沈み込んでくる。もう、後戻りはできない。満たされていく恐怖と、それを遥かに上回る悦びで、思考がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。私のいちばん奥にある、誰にも触れさせたことのない聖域が、今、無慈悲に暴かれようとしていた。
そして、ぐっ、と腹の底を突き上げるような、圧倒的な圧迫感。
一番奥深く…子宮の入り口を、その硬い先端が、抉るように突いた瞬間。
私の世界から、音が消えた。
脳天まで突き抜ける白い衝撃。視界が閃光で弾け飛び、思考は完全に停止する。「神崎美月」という私が築き上げてきた知性もプライドも、そのたった一突きで跡形もなく粉砕された。
そこにあったのは、もう私ではない。ただ、雄の幻想に貫かれ、存在のすべてで悦び喘ぐ、名もなき「雌」だった。
***
「お客さん、着きましたよ」
はっ、と我に返ると、そこはいつものタワーマンションのエントランスだった。バックミラー越しに目が合った運転手は、不気味なほど静かな笑みを浮かべていた。
夢…?
料金を払い、震える足でタクシーを降りる。彼の笑みが、私の幻想のすべてを知っているかのように思えて、背筋がぞくぞくした。部屋に戻り、鏡の前に立つ。ブラウスは乾き始めていたけれど、私の身体の中心で疼く熱と、シルクのパンティに残された確かな痕跡だけが、あの背徳的な旅が、ただの妄想ではなかったことを静かに告げていた。

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