11月2日(日)
ネオンの看板が、ひとつだけ切れかけて瞬いていた。
都心から少し外れた、古いラブホテル。けばけばしい電飾と、かび臭さと芳香剤の匂い。普段、依頼人との会食で使うホテルのロビーとは、何もかもが違う。
ここを選んだのは、私だった。
「……ごめんな、こんなとこで」
部屋に入ると、健司さんは少しばつが悪そうに頭を掻いた。建設現場で鍛えた分厚い胸板。日に焼けた首筋。アプリで知り合って、三度目に会った男。二度目の夜、彼は私の手を握っただけで帰っていった。
「いいの。こういうところ、来てみたかったから」
嘘ではなかった。ここでは、私はただの女で、彼はただの男だ。
言葉の選び方

ベッドの端に並んで座ると、彼の膝が、私の膝に触れて離れた。
「……あんたみたいな人が、なんで俺なんだ」
正直な質問だった。だから、正直に答えた。
「あなたの手が好きなの。それと、あなたが私を見るときの目」
「目?」
「この前の夜、ずっと私の胸を見ていたでしょう。見ないようにしながら」
彼の首が、耳まで赤くなった。
「……悪い」
「謝らないで。私も、見てほしくて、あのブラウスを着ていったんだから」
彼は、床を見たまま、何も言えずにいた。
私は、ブラウスの一番上のボタンを外した。
現場の手
二つ目のボタン。三つ目。黒いレースのブラジャーが、ベッドサイドの安っぽいオレンジの照明に照らされた。
健司さんの喉が、大きく鳴った。膝の上の拳が、白くなっている。
私は、彼の大きな手を取って、レースの上から自分の乳房に置いた。ごつごつした、硬い皮膚。現場の手だ。その手のひらの下で、先端が硬くなっていくのが、自分でも分かった。
「この前の夜から、ずっとこうしたかったんでしょう。……揉んで。あなたの手で、思いきり」
自分の口から出た言葉に、自分で驚いた。法廷でも、事務所でも、私はそんな言い方を一度もしたことがない。
彼の指に、力がこもった。
もっと
「……もっと」
彼の手が、レースの上から乳房を鷲掴みにした。強い。柔らかい肉が、指のあいだで形を変える。その痛みの手前の強さに、声が漏れた。
「……これ、邪魔だな」
彼が、初めて自分から言った。
私は、答えの代わりに、背中のホックを自分で外した。
こぼれた胸の先を、ざらついた指が摘む。こねて、ねじる。私の腰が、勝手にベッドの上で揺れた。
「すげえ……。あんた、どこもかしこも、柔らかい」
スカートの中に、彼の手が入ってくる。ストッキングの上を、太腿の内側へ。それから、ガーターの留め具を越えて、シルクの布の上に。
「……濡れてる」
「ええ。……ぐしょぐしょよ。あなたのせいで」
彼が、私の目を見た。もう、床は見ていなかった。
舌

彼は、私をベッドに倒して、脚を大きく開かせた。その中心に、顔を埋める。
布越しに舐め上げられて、腰が跳ねた。じれったい。そう思った瞬間、彼は歯でクロッチを横に引き寄せて、むき出しになったところに、舌を突き立てた。
「あっ……ぁ、あ……!」
くちゅ、くちゅ、と、いやらしい音が、安い部屋の壁に響く。いちばん弱いところを、舌の腹で何度もなぞられて、最初の波は、あっけないほどすぐに来た。
顔を上げた彼の口元が、てらてらと光っていた。
私の番
彼がベルトを外す。
解き放たれたものは、日に焼けた体と同じように、たくましかった。先端が、照明の下で濡れて光っている。
私は、自分からベッドを降りて、彼の前に膝をついた。熱い先端に唇を寄せる。しょっぱい、雄の味。舌で傘の縁をなぞると、彼の喉から低い唸り声が漏れた。
裏の筋を、ゆっくり舐め上げる。彼の太い指が、私の髪をつかんだ。
「……あんた、上手すぎる」
口を離して、彼を見上げた。
彼の目が、熱で潤んでいた。言葉を探して、見つけられずにいる目だった。
私は立ち上がって、ベッドに膝をつき、彼のほうへ腰を向けた。肩越しに、彼を見た。
「……ちょうだい。あなたの、その硬いのを。私の、おまんこに。奥まで」
上品な言い方は、もう一つも思いつかなかった。
嵐
熱く硬いものが、入り口に押し当てられた。それから、ゆっくりと、押し広げられていく。
「んっ……ぁあ……っ」
大きい。裂けてしまいそうなほど。けれど、内側の襞は、拒むどころか、待ちかねたように絡みついて、もっと奥へ誘い込んでいく。
全部、入った。
「……あんたの中、熱い。吸いついてくる」
彼が、私の腰を掴んで、突きはじめた。安いベッドが、ぎいぎいと鳴る。彼の動きは、彼の手と同じだった。不器用で、正直で、容赦がない。
奥を突かれるたびに、声が出た。もう、抑えなかった。この部屋は、そのための部屋だ。
二度目の波が来て、それが引く前に三度目が来た。
彼が、私の中で、いちばん深く脈打った。灼けるような熱が、奥に広がっていくのが分かった。
二つの顔
気づくと、彼の太い腕の中にいた。部屋には、汗と、私たちの体の匂いが満ちていた。
「……なあ。あんた、あんな言葉、使うんだな」
「初めて使ったわ。この部屋だから」
彼は、少しだけ笑った。それから、照れたように、私の髪を不器用に撫でた。
明日の朝、私はまた、言葉を一つも崩さない書面を書く。誰もが、正しい言葉しか使わない世界で。
その書面のどこにも、今夜の言葉は出てこない。だからこそ、あの言葉は、私の中で、いちばん深いところに残る。
この夜の続きを、貴方も目撃する…。
昼の私と夜の私の物語は、連載『痴女弁護士・神崎美月』で続いています。新しい話のお知らせと、ここでしか読めない番外編は、メールマガジンでお届けします。








