10月21日 (火) 東京は曇天、私の魂は欲望の豪雨に沈む
録音のアナウンスが流れ、セットのドアが開く。私は、エキストラたちの波に押し出されるまま、撮影用のホームに降り立った。膝が、笑っている。生まれたての小鹿のように、意思とは関係なく、がくがくと震えている。
腰の奥が、まだ甘く、重くしびれている。二十人の視線の中で、彼の指一本でいってしまった。その記憶が、頭と現実の境目を曖昧にしていく。太腿の内側を伝う生々しい感触だけが、夢ではなかったと教えていた。
『どうだ? 夢は、叶ったか?』
頭の中の観察者が、遠くで笑う。
叶ったわ。でも、まだ足りない。
人混みに消えたはずのタツヤが、セットの柱の陰から、何事もなかったように現れた。私の抜け殻のような顔を見て、満足げに口の端を歪める。
「まだ突っ立ってるのか、痴女。今日の撮影は、もう一つセットを借りてある」
彼は、私の腕を掴む前に、一度だけ聞いた。
「続けるか。それとも、カットか」
「……続けて。今度は、命令して。私に」
腕を掴まれる。熱く、力強い手。私は、そのまま、彼に引かれていった。
多目的トイレのセット:痴女の「洗礼式」
スタジオの奥に、もう一つの部屋があった。駅のホームの端にある、「だれでもトイレ」の内装を、そっくり再現したセット。壁のタイル、手すり、ボタン。手洗い場には、大きな鏡と、広い洗面カウンター。
「お前のお気に入りの聖地だろう? さっきのはミサだ。本番の洗礼式は、これからだ」
台詞のような言い方で、彼は私を中に押し込み、内側から重い鍵をかけた。カチャン、という音が、ゴングのように響く。
消毒液の匂いまで、本物と同じだった。壁の向こうから、録音の駅のアナウンスと、電車の発着音が、くぐもって聞こえてくる。誰も来ない。それを知っているのに、身体は、誰かが来るかもしれない、と勝手に怯えて、勝手に熱くなる。

タツヤは私を壁際に追いつめ、品定めするように顔を覗き込んだ。
「ひどい顔だな、美月。羞恥と、快感で、ぐちゃぐちゃだ。だが、それがいちばんそそる。お前の知性の仮面が、欲望でひび割れていくのを見るのが、たまらないんだ」
「……ボタンは、引きちぎって。そっと外したら、許さないから」
彼の指が、ブラウスのボタンを、一つずつ、引きちぎるように外していく。ぷちっ、ぷちっ。小さなボタンがタイルに散らばる音。露わになったブラジャーの上から、胸を、熟れた果実を確かめるように鷲掴みにされた。
「ははっ。もう洪水じゃないか。なあ、美月。お前みたいなプライドの高い女は、自分の汚れた様を、自分の目で見せられるのがいちばん興奮するんだろう?」
鏡の前で
彼は私を、手洗い場の大きな鏡の前に立たせた。ストッキングとガーターを、邪魔な皮を剥ぐように剥ぎ取っていく。露わになったそこは、彼の指と私自身のもので濡れそぼり、だらしなく開いていた。
「見ろ。鏡の中の女をよく見ろ。これが、お前の本当の姿だ。法廷で男を言い負かす女なんかじゃない。男の指でいかされて、だらしなく垂れ流しているだけの、淫乱な雌だ」
その言葉を言わせたのは、私だった。三週間前の文字のやり取りで、「鏡の前で、私をいちばん下品な言葉で見下ろして」と書いたのは、私の指だった。
それでも、その言葉は、巨大な鉄槌になって、私の中に残っていた最後の理性を、粉々に砕いた。鏡の中の女が、私を見ている。その目は、絶望ではなく、抗いがたい悦びに濡れていた。
「さあ、手をつけ」
私は、洗面カウンターに両手をついた。冷たい人工大理石の感触が、手のひらと腹を圧迫する。
「尻を、高く上げろ」
命令。私が頼んだ、命令。
私は、考えることをやめて、それに従った。いちばん無防備で、いちばん屈辱的で、いちばん受け入れやすい姿勢。鏡の中に、それが全部映っている。壁の向こうの録音の雑踏が、この部屋の異常さを、いっそう際立たせる。
背後で、ベルトのバックルが擦れる音。熱く濡れた入り口に、指とは比べものにならない、熱く硬く膨張したものが、押し当てられた。
「……お願い、します。早く。あなたので、私を汚して。あなたの形に、私のナカを、作り変えて」
「名器」の覚醒
彼は、ゆっくりと、本当に、息が止まるほどゆっくりと、沈みはじめた。
一ミリ、また一ミリと押し広げられ、内側の粘膜が、彼の形を覚えていく。熱い。硬い。太い。
『見ろ。お前の内側が、歓んでいる』と、観察者が囁く。
彼が、ぴたりと止まった。まだ、半分ほどしか入っていない。その中途半端さが、私の内側を、狂おしいほど飢えさせた。
「おい、美月。お前のナカ、すごい動きしてるぞ」
彼の言うとおりだった。私の内側で、意思とは関係なく、何かが蠢いている。自分を持った、粘膜の生き物のように。中途半端に入ってきた彼を、もっと奥へ引きずり込もうと、きゅう、きゅう、と、とてつもなくいやらしく収縮を繰り返している。
「……奥まで。全部」
彼が、最後まで沈んだ。満たされた。隙間なく。
その瞬間、私の中の生き物が、本性を現した。
ただの筋肉の収縮ではなかった。逃がさないと決めた獲物に巻きつく蛇のように、彼にねっとりと絡みつく。襞の一枚一枚が吸盤のように吸いつき、彼の脈の一拍一拍を感じ取り、それに応えて、さらに強く締め上げる。
彼は、動いていない。動いているのは、私の内側だけだった。
背後で、彼が息を呑んだ。驚きと、抑えきれない興奮の混じった声。
「……なんだよ、これ。お前のナカ、どうなってやがる。生きてるみたいじゃねえか」
その声が、私には、どんな判決よりも深い賛辞だった。
鏡の中で、私は笑っていた。命令させたのも、見下ろさせたのも、ここまで連れてこさせたのも、全部、私。そして今、動けなくなっているのは、彼のほうだった。
この夜の続きを、貴方も体験する…。
昼の私と夜の私の物語は、連載『痴女弁護士・神崎美月』で続いています。新しい話のお知らせと、ここでしか読めない番外編は、メールマガジンでお届けします。








