昼は弁護士、夜は自分で選ぶ痴女。神崎美月の秘密の記録

【神崎美月の痴女日記】今夜は私からかけた。レンズの向こうの「S」に見せた夜

11月11日(火)快晴

今日の和解は、相手方の社長が判子を押す直前に、三度ペンを置き直した。三度とも、私は黙って待った。四度目に、朱肉の匂いがした。

勝った夜の部屋は、静かすぎる。

タワーマンションの四十二階。リビングの窓の外に、東京の灯りが撒き散らしたように広がっている。グラスのブルゴーニュは、二杯目で味がしなくなった。喉が欲しがっているのは、ワインではなかった。

スマートフォンを手に取る。登録名は、ただの「S」。アプリで知り合って、文字だけのやり取りを二か月。顔は知らない。声も、まだ聞いたことがない。知っているのは、彼の命令の文面が、どれもひどく正確だということだけだ。

今夜は、私からかけた。ビデオ通話で。

レンズの角度

呼び出し音が三回鳴って、つながった。画面に映ったのは、薄暗い部屋の天井だけだった。

『……驚いたな。そっちから来るとは』

初めて聞く声は、文面よりも低かった。

「顔は見せなくていいわ。あなたは、見るほう」

私は、スマートフォンを大理石のローテーブルに立てかけて、レンズの角度を何度か直した。窓の夜景が背中に入り、私の全身が収まる角度。判決文の余白を整えるときと同じ手つきだった。

画面の隅の小さな四角に、ネイビーのセットアップを着た女が映っている。昼間の会議室から、そのまま帰ってきた女。

『……まず、その鎧をよく見せろ』

言われる前に、私は立ち上がっていた。

一つだけ

『ジャケットのボタンを、一つ外せ。一番上の一つだけだ』

一つだけ。この男は、全部を脱がせるより、中途半端に残すほうが効くことを知っている。

ボタンを外す。白いシルクのブラウスが、ジャケットの合わせ目から覗いた。その下で、先端が硬くなっていくのが、自分でも分かる。レンズの向こうの男にも、きっと分かっている。

『スカートのジッパーを、十センチ下ろせ』

ジィ、と小さな音。スリットの奥から、ガーターのストラップと、黒いストッキングの縁がのぞいた。

『何が見える。言え』

「……ガーターと、ストッキング。それから、その奥で、あなたを待っているもの」

自分で言った言葉に、自分で頬が熱くなった。画面の向こうで、男の息が一瞬、止まったのが聞こえた。

秘密のもの

『全部、脱げ』

ブラウスのボタンを外す指が、急いでいた。スカートが床に落ちる。窓ガラスに、黒いレースのブラジャーとガーターだけの女が映った。画面の小さな四角にも、同じ女がいる。

『……いい身体だ。それで、夜はひとりで、何を使っている』

その質問が来ることは、分かっていた。分かっていたから、ここに用意してある。

私は、ソファのクッションの下から、ビロードの小さな袋を取り出した。レンズの前で、ゆっくりと紐をほどく。

中から出てきたのは、肌の色に近いシリコンの、生々しい形をしたもの。先が少し反っていて、浮き出た筋まで作り込まれている。

それを、レンズのすぐ前まで近づけてみせた。

「これ。……あなたの代わり」

『……っ』

今度は、はっきりと聞こえた。画面の向こうで、男が息を呑む音。私は、それが聞きたくて、二か月待ったのかもしれない。

代わりのもの

『……ブラジャーの上から、先で胸を嬲れ』

冷たい先端が、レース越しに尖りを押した。ひやりとした感触に、小さな声が漏れた。冷たいのに、そこから広がっていくのは熱だった。円を描くように動かすと、レースの下で、先端がさらに硬くなる。

『下だ。布の上から擦れ。音を聞かせろ』

床に膝をついて、脚を開いた。クロッチの上から、硬い先端を押し当てる。濡れたシルクと、シリコンが擦れて、じゅく、と湿った音がした。スピーカーの向こうで、男が何かを言いかけて、やめた。

私は、自分から布を横にずらした。

『……まだ、命令していない』

「知ってる」

レンズを見つめたまま、濡れきったところに、その先端をそっと当てた。いちばん敏感な尖りを、ゆっくりなぞる。腰が勝手に跳ねた。

「……ねえ、命令して。あなたの声で。入れろ、って」

根元まで

『……入れろ。ゆっくりだ。どう入っていくか、言いながら』

一ミリずつ、沈めていく。

「……入って、くる。冷たいのに、なかが、熱い。……きゅって、締めて、る」

内側の襞が、異物に絡みついていく。拒むように、もっと奥へ誘うように。冷たかったシリコンが、私の熱を吸って、だんだん人の温度になっていく。

『もっと奥だ。根元まで』

床に手をついて、四つん這いになった。レンズに、腰を向ける。窓に映る女は、もう昼間の顔をしていなかった。

奥まで、押し込んだ。

声が、出た。抑えようとも思わなかった。抜いて、また沈める。抜いて、また沈める。自分の手の速さが、だんだん分からなくなっていく。

『……名前を呼べ』

「……知らない、くせに」

『だから、呼べ』

「……S、さん……っ、S……!」

意味のない一文字が、こんなにいやらしく聞こえるとは思わなかった。その一文字を叫んだ瞬間、奥が、手の中のものをきつく締め上げた。何度も、何度も。床に頬をつけたまま、腰だけが震え続けた。

通話の終わり

どれくらいそうしていたのか、分からない。

『……最高だった』

男の声は、さっきより掠れていた。

「次は、あなたの顔も見せて」

『……考えておく』

通話を切ったのは、私だった。

画面が暗くなる。黒い鏡になったスマートフォンに、床に座り込んだ女が映っている。髪は乱れ、口元は濡れて、ひどい顔をしていた。

いちばん、いい顔だった。

この夜の続きを、貴方も目撃する…。

昼の私と夜の私の物語は、連載『痴女弁護士・神崎美月』で続いています。新しい話のお知らせと、ここでしか読めない番外編は、メールマガジンでお届けします。

→ 【特級痴女の秘密】理性とプライドを投げ捨てた女の快楽の記録

この記事を書いた人

はじめまして、神崎美月です。昼間は法律事務所で書面を書いている弁護士。夜の私が何をしているのかは、この場所と連載に書いています。あなたと、特別な時間を共有できたら嬉しいわ。

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