11月4日(火)
三か月かけた事業譲渡の契約に、今日の午後、最後の調印がそろった。
依頼人の会社の社外取締役が四人、全員がそれぞれの判子を押し終えたとき、私は会議室の隅で、契約書の最後のページを閉じた。そこに私の名前はない。代理人の名前は、どこにも残らない。それが、この仕事だ。
夜、四人を、ホテルのスイートに呼んだ。
呼んだのは、私だった。招待状には、こう書いた。「臨時取締役会。議題は当日」。
招集
スイートの奥に、大きな鏡があった。ベッドの向かいの壁、床から天井まで。この部屋を選んだ理由は、それだけだ。

四人は、スーツのまま来た。昼間、私が議事録を取っていた男たち。誰も、何の議題なのかを聞かなかった。聞かなくても、分かっていたのだろう。
私は、ベッドの端に腰かけて、脚を組んだ。ブラウスのボタンは、すでに三つ外してある。黒いレースが、合わせ目からのぞいていた。
「では、臨時取締役会を開会します。議長は私」
四人が、顔を見合わせた。
「議題は一つ。今夜、私が何をするか。動議は、皆さんから出してください。決めるのは、私です」
第一号議案

沈黙が、しばらく続いた。
いちばん年長の男が、咳払いをした。
「……ブラウスを、脱いでいただきたい」
「理由は」
「……鏡に映るあなたを、見たい」
「可決」
ブラウスを、肩から落とした。鏡の中に、黒いレースのブラジャーとガーターの女が映る。その背後に、スーツの男が四人、立っている。昼間の会議室と同じ並び方で。
「第二号議案」
二番目の男の声は、かすれていた。
「……その下も。ブラジャーを」
「可決」
カップを外した。こぼれた胸の先が、もう硬く尖っていた。鏡の中の女は、頬を赤くしているのに、目だけがひどく落ち着いていた。
第三号議案

三番目の男は、議案を口にする前に、床に膝をついていた。
「……脚を、開いてください。鏡に向かって」
私は、ベッドを降りて、鏡の前の絨毯に腰を下ろした。四人が、私を囲むように膝をつく。
脚を、ゆっくり開いた。
ガーターの留め具の内側。黒いシルクの小さな布が、もう色を変えていた。鏡の中で、四人の視線が、一斉にそこに集まった。
「……可決。でも、それだけじゃ足りないわね」
クロッチを、自分の指で横によけた。
濡れきったところが、鏡と、四人の目の前に出た。
第四号議案

四番目の男は、最後まで黙っていた。昼間の会議でも、ずっと黙っていた男だ。
「……あなたは?」
彼は、鏡の中の私を見たまま、言った。
「……自分の手で、してください。我々に見せながら。いくところまで」
私は、鏡の中の彼と目を合わせた。
「全会一致ね」
指を沈めた。
一本。二本。内側の襞が、待ちかねたように絡みついた。四人分の視線が、指の動きを一つも見逃すまいと注がれている。鏡の中で、私の指が出入りするたびに、四人の喉が、順番に鳴った。
「あっ……ぁ……っ」
奥の、いちばん弱いところを押した。腰が絨毯の上で跳ねた。
鏡の中の女が、四人の男に囲まれて、自分の指で乱れている。その女を、私は議長として見ていた。
波が来た。
背中が反って、鏡の中の天井が揺れた。何度も、何度も、指を締めつけた。四人は、最後まで、誰一人目を逸らさなかった。
閉会
「……以上をもって、閉会します」
息が整ってから、私はそう言った。
四人は、黙って頭を下げて、一人ずつ部屋を出ていった。最後の一人、四番目の男が、扉の前で振り返った。
「議事録は」
「取らないわ。今日のことは、どこにも残らない」
代理人の名前が、契約書のどこにも残らないように。
この夜の続きを、貴方も目撃する…。
昼の私と夜の私の物語は、連載『痴女弁護士・神崎美月』で続いています。新しい話のお知らせと、ここでしか読めない番外編は、メールマガジンでお届けします。








